老ノ坂へ(38)

 白い壁や洗面所、あるいは空を見上げだ時に黒いゴミか虫のようなものが動いて見える状態を飛蚊症(ひぶんしょう)と言います。黒い虫のようなものの形状や大きさは様々で、視線を動かすと追いかけてくるような動きをしますね。加齢が原因かと思っていましたが、この症状が20代から自覚する人もいるそうです。気になると言えば耳鳴り同様、ちょっと引っかかりますが、日々気になると事だらけなので、すぐに物影に隠れてしまうのが実情です。定年で仕事から解放されるとこうした心配事や悩みのタネが一斉に顔を出す不安もありますが、生きて行くと言う事はこうした悩みや不安と上手く付き合っていくものなのですから、気にしていてもキリがありません。

 組織にいると狡猾な人間の行動に気をもんだり、挨拶がまともに出来ない人間に心を痛めたり、難しいミッションに頭を抱えたりする事もある意味、車窓の風景みたいなものですが、一人になるときっと、景色が一変するのだと思います。草木が刈られ、コンクリートで固められた地面が宅地になると、次の夏に確実に蝉になれない地中の幼虫が気になるのでしょう。生きることは人と関わる事で、自分の意向に依らず、避けられないので、主義主張だけではなく、上下の世代と辛抱、我慢くらべをしていかなくてはなりません。